私はごくりと唾を飲み込む。下手に話すとボロが出ると思い、なにも覚えていない設定にしたけど、まずかったかな。
誰でも受け入れてしまう理事長だけど、さすがにまったく素性のわからない人を採用するのは不安なのかもしれない。
「お給料は、一般企業で働くよりも安いわよ。それでもよくって?」
「住むところさえあれば、それよりありがたきことはない。飯炊きでも掃除でもやりましょう」
土方さんは、出会ったときとは別人のように、柔和に微笑む。
「あなたの望みのままに」
その白い顔面が、発光したように感じた。光の微粒子が放出されるような微笑み。眩しくて直視できない。
見つめられた理事長も目を細め、紅潮した頬を緩ませた。
「いいでしょう。困っている方を放ってはおけませんもの」
頷いた彼女は、いつもと同じ優しい顔をしていた。疑念が解けたというより、土方さんのことを信用してみようと思ったのだろう。
なんだかなあ。生粋のプレイボーイの業を見せつけられた感じ。相当モテていたんだろうな。
「ありがたき幸せ」
二人は視線を絡め合わせる。目と目で通じあっている感じだ。
しばし土方さんの笑顔に見惚れてぼんやりしていたけど、はたと我に返った。
これは、面接に受かったということね。
「ありがとうございます理事長! では失礼いたします!」
微笑みひとつで理事長の心を掴んでしまった土方さんだけれど、長く話しているとボロが出そうだ。
私は土方さんの腕を引っ張って、逃げるように理事長室をあとにした。