「ふうん……」

 疑っているのだろうか。理事長が人を疑うことはあまりない。やっぱり不自然すぎるんだ。いくら外見を繕っても、わかる人にはわかるのかも。

 理事長は私と土方さんを交互に見つめた。私はハラハラしたまま汗だくで固まっていた。

「とても素敵な方ね。もしかして美晴さんの彼氏じゃないでしょうね」

「はっ⁉」

 理事長の発言が予想外すぎて、喉から縦笛のような変な高音が出てしまった。

「安く一緒に住みたいから、という理由じゃダメよ? 寮で破廉恥なことをされたら、寮生の教育にもよくないし」

「そそそそそそんなわけないじゃないですか。この人とは会ったばかりで、絶対、天地神明に誓って、そのようなことはありません!」

 冗談じゃない。今まで一度も彼氏がいたためしがないのに、そんな悪いことをするように見えるとは心外だ。

 それに、たとえ彼氏だとしても、一緒に住み込みで働くのは嫌だ。普通の企業で普通に働いている人と付き合いたい。〝ごく普通の人生〟が、私の憧れなのだから。

「冗談よ。美晴さんは真面目ねえ」

 理事長はクスクスと笑い、土方さんの方に向き直る。

「じゃあ、今までの学歴も職歴もわからないのね」

「うむ。面目ない」