一度寮に帰り、荷物を置いてから及川学園に向かう。

 私たちを出迎えた寮長は、「これがあのコスプレさん? ひゃー、こりゃすごい。人って変わるもんだなあ」と変身した土方さんを絶賛していた。

 違うのよ。土方さんは服と髪を変えただけ。もともと持っていた可能性を引き出したのはこの私……なんてね。



 面接の約束をした午後三時の五分前に、私たちは理事長室に到着した。

「失礼します」

 ノックをして入ると、窓の方を見ていた理事長が椅子を回転させて振り向く。

 大きな回転椅子にちょこんと座っているのが、及川学園の理事長、及川氏だ。齢七十歳を迎えるおばあちゃん……もとい、淑女である。

 豊かな白髪ショートカットを綺麗にセットしている理事長は、私を見て目を細めた。

「美晴さん、お久しぶりね。元気にしている?」

「ええ、おかげさまで」

 理事長に会うのは半年ぶりだ。寮で働き始めた三年前から、数えるほどしか会ったことはない。

「そちらの方が、面接を受けにみえた……」

「はい。土方歳三さんです」

 理事長は頬を染め、目を丸くした。世代が違っても、美男の定義はそう変わらないらしい。

「まああ、新選組の副長と同じ名前なのね。珍しいわ」

 私はぎくっと肩を震わせた。土方さんは思いのほか、有名らしい。偽名を名乗らせた方がよかったかな。