パスタは和風パスタだったので、箸がついてきた。土方さんは現代風盛り蕎麦だと理解したらしく、男らしく思い切り音を立ててすすった。
「ふ、ふふ……」
なんか、ここまでくると逆に面白い。イケメンなのに、イケメンになりきれない土方さん。
きっとこの世界に戸惑いつつ、私に気を使ってくれているんだよね。
「……なんだ」
「いいえ。おいしいですか?」
「まあまあだな。俺は美晴が作る料理の方が好きだ。特にたくあん料理は絶品だ。また作ってほしい」
好き──。
そこだけが大きく聞こえたような気がして、どきりとした。
「あんなのでよければ、いつでも作りますよ」
誰かに喜んでもらえるのはうれしい。俄然創作意欲が湧く。
にやけてしまうのをごまかすように、コーヒーをすする。
「美晴は笑った方が美人だな。今みたいに笑っていたら、きっと嫁の貰い手も現れるさ。諦めるなよ」
ときめきかけた心がすっと冷めた。この人、私のことまだ行き遅れだと思っている。
私は食事をしながら、現代では女性が勉強をして外で働くのは当たり前であること、結婚しないという人生の選択肢があること、男女平等であることを丁寧に説明した。
土方さんは、「そりゃあいい世の中になったもんだ」と笑顔で聞いていた。
「俺がこの世に生まれた者なら、絶対に美晴を嫁にもらうな」
「う、嘘だあ。ダメですよ、たくあん料理ごときで胃袋掴まれたら」
「照れるな照れるな」
それまでの説明をちゃんと聞いていたとは思えない発言で、私の心をかき乱す土方さん。
嫁だなんて。未恋愛未経験の乙女をからかわないでほしいよ。
くすくすと笑う土方さんを、盗み見る。
私も、土方さんはむっつり考え込んでいるより、笑った方が何倍も素敵だな、と思った。