「たのもう!」

 うっかり私まで武士のような言葉遣いになってしまった。

 美容師さんたちはニート風の土方さんを見て、一瞬ぎょっとしたようだけど、すぐに営業スマイルに戻る。

 昨夜ネットで予約をしておいたので、スムーズに席に案内された。

「今日はどのようにいたしましょう」

「就職の面接があるので、黒髪のまま、襟足や耳の回りはすっきりと。清潔感のあるスタイルでお願いします」

 早口でオーダーし、付き添い用の入口近くのソファに座った。

 店員さんたちは土方さんを、妹に付き添われたニートかなにかだと思っているだろう。引きこもってゲームばかりしているうち、髪が伸びてしまったダメな人に見えないこともない。

 とにかく髪を切ったら、少しはましになるだろう。疲労困憊していた私は、ソファに体を預け、いつの間にか眠ってしまっていた。


 一時間後。

「美晴、美晴」

 とんとんと肩を叩かれ、私は目を覚ました。すると、至近距離で私を見つめていた黒真珠のような双眸と視線がかち合う。

「わあ!」

「終わったぞ」

 そこにいたのは、髪を切った土方さんだった。長い後ろ髪は綺麗さっぱりなくなり、ワックスでスタイリングまでしてもらっていた。

 あまりの変わりように、言葉を失った。まさかここまで髪型で印象が変わるとは。

 今の土方さんは、完全な現代風イケメンだった。見つめられるだけで、頬が熱くなる。