庭を掃いていた寮長に声をかけ、鉄格子のような門から外へ出た。

 明らかに部屋着用スウェット上下とニット帽、そして庭用サンダルで歩く土方さんを、道行く人々が眉を顰めてちらちらと見ていく。隣に立つ私は、小さくなるしかなかった。

 恥ずかしい……。初めて男性とふたりきりで歩いているのに、デートではなく刑罰みたい。

 しかし世間の冷たい視線に気づかないほど、土方さんは現代の景色に驚いていた。

 アスファルトの道路、そびえ立つビル、道行く人々の服装、車道を走る自動車などを見て、彼は始終キョロキョロしていた。完全に挙動不審。

「とんでもないところに来ちまった。まるでおとぎの国みてえじゃねえか」

 ラ行が巻き舌になり、「し」と「ひ」が曖昧な江戸弁で彼はぶつぶつ言う。

 バスに乗り込むと、「なんだこの駕籠は! 駕籠舁はどこだ!」と騒ぎ出したので、さすがの私も「お願いだから静かにしてください!」と怒鳴ってしまった。

 珍しいだろうし、混乱するのもわかるんだけど、周囲から見たらただの変な人だから! 一緒にいる私の身にもなってほしい。

 目的地で降車した私は、すでに疲労困憊していた。そんなのお構いなしに、土方さんが顔をのぞきこんでくる。

 近い! 近すぎる!

 不意打ちされて、私は思わずのけぞった。

「どうした。顔色が悪いぞ。おぶってやろうか」

「いいいいいえいえ、結構です!」

 端正な顔が至近距離に来て、どぎまぎしてしまう。

 おんぶは辞退し、自分で頬を叩いて正気に戻す。もう、顔がよすぎて心臓に悪いよ。

 目の前の美容院に向かい、私は早足で歩いた。土方さんがゆったりと後ろからついてくる。