「困ります」

 原田先生は、私が土方さんを想っていることに、前から気付いていたそうだ。だから私の心を癒そうと、これまでも男友達を紹介してくれようとしたことがある。

「いや、会うだけだから」

「それが目的だったんですね。帰ります」

「もうすぐそこなんだって!」

 食い下がる先生を振り切り、背を向けて歩き出した。

 私を思いやってくれているのはわかるけど、余計なお世話だよ。私はまだ、新しい恋愛なんて……。

「おい、遅ぇぞお前ら」


──え。


 背後からかけられた聞き覚えのある声に、足が絡めとられた。

 忘れるはずがない。このラ行巻き舌の低い声は……。

 おそるおそる振り返った。視線の先に立っている人の姿を見て、息が止まりそうになった。

「あ……」

「そんなに俺に会いたくなかったか」

 漆黒の髪。黒真珠のような瞳。絵から抜け出たような、均整のとれた顔立ち。

 体が震えた。目に涙の膜が張る。

「土方……さん?」

 現代の服を着た土方さんは、にいっと口の片端を上げて笑った。

「待たせたな」