彼に関してはもうひとついいことがあった。なんと、繁華街で助けた女の子が寮まで会いにきてくれたのだ。お礼を言われ、ラブレターを渡された加瀬くんは、今まで見たこともない笑顔を浮かべていた。

「そういえば美晴ちゃん、この後時間ある?」

 原田先生に話しかけられ、現実に引き戻された。

「ええ。どうしたんですか?」

「本屋に参考書を見に行くけど、一緒に行かない?」

 土方さんがいなくなってから一時期塞ぎこんでしまった私を心配し、原田先生はよく声をかけてくれる。

「たまにはいいですね」

「決まりだな。じゃあまたあとで」

 午前中の仕事を片付けてから、私は原田先生と出かけた。

「あのさ、本屋に行く前にちょっと寄っていきたいところがあるんだけど」

「いいですよ。どこですか?」

 原田先生は、なにかを含んだような、微妙な笑顔を返してきた。

「うん。コーヒーがおいしい店なんだけど」

「はい」

「実はさ、美晴ちゃんを紹介してほしいっていう知り合いがいて」

 そこで、私の足は止まった。