「おはよう。しっかり食べていってね」

 私は寮生ひとりひとりに声をかけ、食事を配膳した。

「今日もおいしそうだ。美晴ちゃん、いいお嫁さんになるよ」

 原田先生が、まだ職員の食事時間じゃないのにフライングで食堂に入ってきた。

「お嫁さんもいいけど、自立しないとです」

 土方さんがいなくなって、三か月。やっと気持ちの整理がついてきた私は、自分の今後のことを考え始めていた。

 すべてを失い、理事長に拾われ、成り行きでなった寮母の仕事は、嫌いじゃない。

 けど、自分の本当に進みたい道はなんなのか、考えるようになった。

 私にできることじゃなく、やりたいこと。結局まだ見つかっていないけど。

「美晴はずっと寮母でいいよ。向いてるよ、みんなのお母さん」

 沖田くんが食べ終わった食器を返却しにきた。

 あの夜、帰ってきたふたりは土方さんがいなくなったことを聞き、ただただ唖然としていた。

『あるべきところに戻っただけだよ。いつかこうなると思ってた』

 そう言う沖田くんは、言葉とは裏腹にとても寂しそうだった。

『戻れたんだろうな。俺たちの記憶も、土方さんのいる新選組のまま、なにも変わってないようだし』