旧幕軍の残党で作った函館共和国は、新政府軍に打ち負かされた。やはり、時代の流れには逆らえなかったのだ。

 しかし、新選組として戦い続けた人生に、欠片ほども後悔はない。

 俺は、俺の誠を貫き通したんだ。

「……なあ、転がっている間に愉快な夢を見たぜ」

「はい」

「京にいたときにな、面妖な体験をした。その夢だ。俺は、未来に迷い込み、未来人と会った」

「それは、楽しゅうございますね」

 息が苦しい。話すたびに、痛みが増す。体の感覚が、末端からなくなっていく。

 旅立つ俺を哀れだと思うのだろう。兵士は涙を零しながら、俺の話を聞いてくれる。

「ああ、楽しかった……。幕府も身分制度もない、戦もない世界だった」

 今でも時々、あのときのことを思い出す。

 誠の道を貫いた先に、あの平和な時代があると思うと、己を奮い立たせられる気がした。

「そこに、かわいいおなごが、いてな」

「惚れていたのですか」

「ああ、惚れてた。俺が惚れたのは、あとにも先にも、あいつひとりだ」

 ただの夢だったのかと思うこともあった。

 いや、夢でもよかった。

 新選組副長として修羅の道を選んだ俺を勇気づけ、温かい気持ちにさせてくれたのは、あのおなごの自信のなさそうな笑顔だった。