彼は現代に残ることを選んだはずだ。なのに運命はどうしてこんなに突然、私から彼を奪ってしまうのか。

 はたと気づいた。京都の時と同じだ。あの時彼は、強く強く幕末のことを思っていた。壬生の景色を見て、幕末に帰った気持ちになったのかもしれない。

 そして今、愛刀を振り回したことで、彼の心は幕末の時代に立ち返ったのだ。

 思い出す。初めて彼を見つけた日の天気は、嵐だった。

「やだ……嫌です、土方さん。行かないで」

 土方さんは、泣きつく私にそっと両手を伸ばした。抱きしめようとする彼の手は、虚しく宙を切る。

「もうお前に触れられねえのか。涙を拭ってやることもできねえ」

 切なげな彼の顔に、胸が締め付けられた。自分の頬を濡らすのが雨なのか涙なのか、もうわからない。

 私たちはどちらもずぶ濡れだった。

「ダメだ。俺の意志じゃどうにもならねえ」

 足元から、どんどん土方さんの体が消えていく。分解された光の粒子になって、ふわふわと蛍のように舞う。

 私はこんなときなのに、それを綺麗だと思った。

 誰よりも強くて、綺麗な人。やっぱりあなたは、この時代では生きられないんだ。