帰れるかわからなくても、やっぱりネタバレはよくないと思う。自分の人生を最後まで知ってしまうとつまらないだろうし、幕府がなくなり、新選組も散り散りになる歴史は、今の土方さんが受け入れられないかもしれない。

「武士が髷を切る時代は、そこまで来ていたんだな」

「そうです。きっと似合うと思うな。さらに男前になりますよ」

 今でも僧侶は坊主頭だし、ポニーテールの男子もいるだろうし、ドレッド、アフロ、色々あるけど、ここではややこしいので説明を省いた。

「ふむ。しかし俺に髪を切らせて、どうするつもりだ」

 つんつるてんのスウェット姿で私を見つめる土方さん。私も彼を見つめ返した。

「さらに男前になる」というセリフにぴくりと反応したように見えたのは、気のせいかな。

「いつ幕末に帰れるかわからないなら、現代で生きていくしかありません。生きていくには、お金がかかります」

 私はこの建物が寮長や私のものではないこと、働かなければここには住めないことを説明した。

 彼が現代人だったら、すぐに警察に送り出すところだ。けれど、彼はそうじゃない。時空を超えた迷子なのだ。

 土方さんには家も戸籍もお金もない。さらに、現代の知識も常識もない。ここから放り出したらすぐに発狂するか、野垂れ死んでしまいそう。

 寮長には土方さんのことをただの記憶喪失者だと報告してある。寮長は誰にでも憐れみをかけてしまう性格で、土方さんについても「落ち着くまでここにいさせてあげよう」と言うものだから、私も同意した。

 しかし、ここで働くには寮の持ち主である、及川学園理事長に許可をもらわねばならない。そこは寮長には権限がない。寮長も理事長に雇われているだけなのだ。

 寮で働きたい人がいるということは、寮長の方から昨日のうちに話を通してくれた。理事長は快く、面接の時間をとってくれたそうだ。