こうなると、一番弱そうな見た目の沖田くんに敵が殺到する。沖田くんは繰り出される拳や角材をひらりひらりと避ける。まるで蝶が舞っているようだ。
しかし逃げるだけではない。カッと目を見開いたかと思うと、驚くべき速さでバットを握り、突き出した。素早く三度も突かれた敵は、お腹を押さえて床でのたうち回る。
「総司こそ、得意の三段突きか。百なん十年ぶりに見たな」
「いやあ、やっぱり鍛練しないとダメですね。筋力が足りないや」
す、すごい。現世では二人とも、剣道や槍術をやっていないって言っていたのに。それでも、普通じゃない強さだ。同じような武器を持っていても、敵と比較にならない。
これが前世のなせる業か。感心していると、原田先生がこちらに駆け寄ってきた。その前に沖田くんが立って、敵を防いでくれる。
「美晴ちゃん、加瀬も大丈夫か。二人で隙を見て逃げろ」
原田先生が、ポケットから小さな鋏を取り出し、足の結束バンドを切ってくれた。手足を開放された私は、安堵して泣きそうになった。
「でも、みんなは」
いくら強いとはいえ、幕末とは違う。相手を殺さないように手加減しているのだろう。大人数の敵が何度もよみがえってくる。