「仕方ない、その同僚とやらに電話しろ」
「わかったわ」

 土方さんか、原田先生か。どっちかに連絡したら、連携してなんとかしてくれるはずだ。そう信じたい。

 スマホを渡され、震える指で操作しようとした。すぐそばでリーダーがにらむように私の手元を監視している。

「やめ、ろ……。おっさんたちに迷惑、かけられねえ」

 加瀬くんが掠れた声で訴えてくる。やっぱりこの子は、根っから悪い子じゃない。他人を思いやる気持ちを、ちゃんと持っている。

「大丈夫よ」
「勝手に、金策、いたすべからず、だ。美晴、逆さ吊りに、されるぞ」

 こんなときに寮規を思い出すなんて。加瀬くん、意外に気に入ってたのかな。

「大丈夫だから……」

「うっせえんだよ! 黙ってろ!」

 なかなか電話をかけられないことに苛立ったリーダーが、加瀬くんの背中を蹴り上げた。呻いた加瀬くんが、ゲホゲホと激しくせき込む。

「やめて!」

「早くしろ! 早くしねえと、こいつの指切り落とすぞ!」

 リーダーは懐から出したナイフをチラつかせた。懐中電灯の光が不気味に反射する。

「わかった。わかったから……」

 冷静でいようとすればするほど、鼓動が早くなる。手が震える。あの夜、知らない男たちに連れ去られそうになった光景がフラッシュバックする。