「美晴、美晴」
名前を呼ばれると、自分の意志より先に瞼が開いた。これは、加瀬くんの声だ。
「加瀬く……んっ、いたっ」
慌てて体を起こそうとしたけど、そうはいかなかった。頭を殴られたのだろう。ずきずきと割れるように痛い。さらに両手両足を結束バンドで拘束されていた。
なんとか上体を起こし、正座の状態になった。辺りは黒い絵の具を塗りたくったような暗闇。だんだんと目が慣れてくると、殺風景なコンテナのような部屋にいることがなんとなくわかった。多分加瀬くんが倒れていた貸し倉庫の中なんだろう。
私が殴られたってことは、誰かがここを見張っていて、侵入者を襲撃しているってことだ。
スマホはどこに行ったかわからない。どうしよう。どうすれば、ここから加瀬くんを連れて逃げられる?
強い不安に押しつぶされそうになる。が、加瀬くんにそれを気づかれてはいけない。
「美晴、なにしに来たんだよ」
「なにしにって、加瀬くんを探しにきたんだよ。みんな心配して……」
わざと明るい口調で返すと、部屋の隅からクスクスと押し殺したような笑い声が聞こえた。
びっくりして顔を上げると、視界が強い光で焼かれたように感じた。突然倉庫内が明るくなったのだ。