言葉になっていない。獣の鳴き声みたいな、これは……。
勇気を出して、一歩踏み出した。足はもうずっと前から震えていたけど、それでも進んだ。
声が聞こえた方をスマホで照らすと、倉庫のシャッターがひしゃげて、鍵が壊されているのが見えた。地上との隙間が空いている。
私はそのシャッターに縋りつくように、ドンドンと両手で叩いた。
「もしもし、誰かいますか!」
また、獣の鳴き声が聞こえた。違う、これは呻き声だ。
私はシャッターに手をかけ、懸命に押し上げた。ぎりぎりと、錆びついたシャッターが動く音が闇夜に響く。
自分の背丈くらいまでシャッターを上げ、中をスマホで照らすと、広い倉庫の隅にうずくまっている黒い塊を見つけた。あの鳥の巣みたいな頭は。間違いない。加瀬くんだ。
「加瀬くん、加瀬くん!」
手足を縛られ、口を塞がれている。震える手でなんとか猿轡を解き、加瀬くんを揺さぶると、彼はごろりと床にあおむけになって倒れた。口元に血が滲み、目の周りに青あざが。体は服のせいで、どれだけの怪我をしているかわからない。
「ひどい……!」
誰が、彼にこんなことを。ふつふつと怒りが沸く。
いや、今は怒っている場合じゃない。早く連絡をしなきゃ。ええと、とにかく救急車かしら。