「ひえ……」

 スマホで辺りを照らすが、不気味さは消えない。やっぱり、ひとりでこんなところに来ちゃいけなかった。

 でも、本能が呼んだんだもん。カンが働いたんだもん。直感が閃いたんだもん。

「か、加瀬く~ん。いたら、返事してぇ~……」

 彼がいるという根拠はなにもなかったけど、ダメもとで呼んでみた。

「加瀬くん。加瀬くん」

 倉庫のシャッターを、順番に叩く。が、どこからも返事はない。

「やっぱりいないよね。うん、ドラマの見過ぎだった。帰ろうっと」

 すべてのシャッターを叩く前に、心が折れた。恥ずかしいし、なにより怖い。お化けが出るかもとかじゃなく、普通に不審者が隠れていたりしたらと思うと、すぐに逃げ出したくなる。

「加瀬くん……」

 いや。彼の方が、もっと怖くて心細い思いをしているかもしれない。こんなことでビビるな。私は彼のお母さん代わりだぞ。

「加瀬くん! いないよね⁉」

 これで最後と決めて、叫んだ。その反響が収まるのを待っていたように、小さな声が聞こえた。