『ケンカの理由、教えてあげる。先輩なかなかカッコいいんだよ』
そう前置きして語った真実は、こうだった。
繁華街で仲間とぶらぶらしていた加瀬くんと取り巻きは、強引に裏通りに連れていかれる同年代の女の子をたまたま目撃した。あとをつけると、ガラの悪い男たち三人が女の子を車に連れ込もうとしていた。
加瀬くんはそれを見て、男たちに猪突猛進した。泣き叫ぶ女の子の手を掴んでいた男を殴り飛ばし、取り巻きに彼女を預け、一緒に逃げさせた。
追いかけようとする男たちを相手に、加瀬くんは時間稼ぎをすることにした。そのときの乱闘で、彼は見事に相手を全員のしてしまったらしい。
『男らしくない? 正義の味方じゃん。でも先輩、さすがにひとりじゃ無理かも。学園に来た他校の生徒は、十数人いたらしいから。今頃簀巻きにされて海に捨てられてるんじゃ……』
「やめてよ!」
恐ろしい想像をさせないでほしい。大人げなく大声を出すと、沖田くんは「ごめん」と謝った。
「とにかく、それが手がかりなのね。加瀬くんがどこに向かったとかは」
『それが、取り巻きにもわからないんだって。迷惑かけたくなかったんだろうね』
「そんな……」
相手の仲間には車を持っている者がいる。まさか、怪我をさせられたあと、遠くへ連れていかれたのでは。そうなると、見つけるのがさらに難しくなる。
へなへなと力が抜けた私は、河原に座り込んでしまった。