「はい、上野です。はい……そうですか。こちらもまだです。またかけます」
原田先生からの連絡だった。お洒落なお店が並ぶ駅前大通りでも、今のところ収穫はないという。
「ねえ、美晴ちゃん。こんなときに、本当に本当に申し訳ないのだけど」
成瀬さんが眉を下げ、泣きそうな顔をした。
彼女には家庭がある。半引きこもりのお子さんが、お母さんの帰りを待っているのだ。そう顔に書いてあった。
「ごめんなさい、気づかなくて。成瀬さん、そろそろ帰らないといけませんね」
成瀬さんと一緒に外に出ると、空がどっぷりと暗くなっていた。生ぬるい風は独特の湿り気を帯びたにおいをしていた。
雨が降ってきそうだ。加瀬くん、こんなときにどこにいるんだろう。
「加瀬くんだけ就職が決まってないって、原田先生が言っていましたよね。自暴自棄になってないといいけど」
「そうね。どうか、無事でいてほしいわ」
入学してからちょくちょく問題を起こしてきた彼は、門限を破ることも過去に数回あった。いつもみんなが心配しているのなんてまったく気にしていないように、あっけらかんとした顔で帰ってくるのだ。
今回もそうだといい。妙な胸騒ぎを、駆ける足音で打ち消そうとした。