いつの間にか近くにいた沖田くんが挙手した。たしかに彼なら適任だ。彼は寮生の前では明るいお調子者で、みんなに好かれている。

「探索か。池田屋を思い出すな」

 土方さんはこのあたりの地図を職員室のテーブルに開き、職員に指示を出す。

「この川の右岸を原田隊、左岸を土方隊が捜索しよう。この辺りは若者に人気の商店も多い。どこかにいるはずだ。美晴はショッピングセンターを探してこい」

 隊と言っても、それぞれ二、三人。偉そうに指示を出しているけど、土方さん、肝心なことを忘れている。

「なあ、トシさん。これは討ち入りじゃないんだ。ひとりずつエリアを決めて探した方が、効率よくないか? 成瀬さんと美晴ちゃんは、暗くなると危ないからふたり一組で」

 原田先生が言うと、土方さんは自分の形のいい額をぺちんと叩いた。

「すまん。池田屋のときほど人数がいないんだった。左之の言う通りだ」

 波多野さんや成瀬さんがぽかんと土方さんを見ているけど、私と原田先生はなにも聞こえなかったフリをした。

 土方さん、緊急事態が起きると、ただちに副長モードになってしまうみたい。

 ちなみに池田屋事件のとき、新選組は浪士の会合場所を探索する際、近藤隊と土方隊に別れている。