原田先生は頭を押さえてため息をついた。見た目はチャラいけど、真面目に生徒のことを考えてくれる、いい先生だ。
「就職以外にやりたいことがあるんじゃねえか? 俺らだって、二十五近くまでフラフラしてただろ」
「あんたの実家は豪農だから、働かなくても食っていけたんだよ。じゃなきゃ十四まで奉公もせずに遊んでいられるか。薬売りも、実家の商売だから適当にできたんだ」
土方さんはあからさまにムッとした表情を見せた。今でいうお坊ちゃんだったのかな。
「やりたいことだってな、生活の基盤ができてなきゃなにもやれない世の中なんだよ。志だけではなんともならないのさ」
「嫌な世の中になったもんだ。まあ加瀬は特にやりたいこともなさそうだけどな。なにをやっていいのかわからねえってとこだろう」
実家という後ろ盾がなければ、純粋にやりたいことだけを続けるのは、よほどの才能や運がないと難しい。その論理はわかる。
アルバイトで食いつないで、その後有名になったという人もいるだろう。ただ、みんながみんなそうなれるわけじゃない。
寮の職員としては、卒業後は安定した生活をしてほしいと願ってしまう。だから今まで、誰も進学に積極的じゃなかったのだから。