土方さんは立ち上がり、伸びをした。表情がよく見えなくなる。代わりに原田先生が、私と土方さんの顔を交互に見比べた。

「え。え、じゃあ、トシさん。あんた幕末のことは忘れて、現代に骨を埋めることにしたのか? そういうことだよな?」

 原田先生が立ち上がって肩をつかんだので、土方さんは先生の顔を強制的に見せられることになった。

「うるせえな。そうだよ。そうした方がいいって、お前が言ったんだろ」

 土方さんは舌打ちして、眉間に皺を寄せる。が、原田先生は満面の笑みを返した。

「またまたあ。こっちで生きる理由を見つけたんだろ? 士道の代わりに、守るべきものをさ。ねっ、美晴ちゃん」

「えっ? さあ……」

 そんなの、私に聞かれても。キョトンとした私と目が合うと、土方さんははあとため息をついた。

「当の本人がぼーっとしてらあ。お前に惚れたからこっちにいることに決めたんだろうが。言わなきゃわかんねえのか」

「ひえっ、うわ、あの」

 私は言葉を失ってしまった。だって、現代に残る意思は聞いていたけど、理由は初めて聞いたんだもん。

 じゃあ、士道の代わりに守るべきものって、私のこと?

 まさか。土方さんが、私のことをそんなに。わああ。

 うれしいやら、原田先生の前で公言されて恥ずかしいやら。机の上に置いてあった鏡に映った自分は、首まで真っ赤になっていた。

「うおおおっ。やっぱそういうことか! やったな美晴ちゃん! おめでとう!」

 原田先生が興奮し、私の両手を掴んで振り回す。あわあわしていると、土方さんが原田先生の手首を掴まえ、「触るな」とにらんで離させた。