あの公園デートから、私と土方さんの間はそれほど進展していない。寮生に気付かれるわけにはいかないからだ。
土方さんの部屋にも私の部屋にも、突然原田先生や沖田くんがやってくるので、油断はできなかった。
「左之、ちょうどよかった。俺の之定をどうしようかと思っていて」
「のさだ? ああ、和泉守兼定か。あれをどうするって?」
原田先生が言ったのは、刀の名称のことだろう。幕末の男同士の奇妙な会話が続く。
「あれも現代にあるんだが、寮に隠し続けるのもよくないと思ってな」
「ああ、そういうことか。じゃあ理事長に相談してみたらどうだろう。博物館とか美術館とかに伝手がありそうじゃないか」
「なるほど」
博物館や美術館を土方さんが知っているかどうかは不明だけど、なんとなくのニュアンスはつかめたらしい。
原田先生は近くの席に座り、土方さんを不思議そうに見つめた。
「でも、どうしたんだ? いきなり刀を処分するなんて。たしかに寮にあっちゃ危ないかもしれないが、あれはトシさんの命のようなもんだろ」
私が聞きたいことを、原田先生が代わりに聞いてくれた。
「こっちで生きていくには必要ねえからな。もう俺は武士じゃねえ。寮母だ」