そっか。私はずっと、誰かに甘えたかったんだなあ。

 もぐもぐと夢中で咀嚼しつつ、色鮮やかな断面を眺める。

 自立しなきゃ。生きていかなきゃ。誰にも頼らずに。

 そんな風に肩肘張って生きてきたけど、本当は、誰かに甘えたかった。たまには力を抜いてもいいよ、大丈夫だよ。そう言ってほしかった。

 胸がいっぱいになって、目尻から雫になった感情が零れそうになった。けど、私はその感情をあえて無視して、食べることに集中した。

「卵がついてる」

「えっ」

 指摘され、思わず顔を上げた。口元を拭おうとしたら、手を土方さんにとられてしまった。

「嘘だ。なに泣いてんだ、お前は」

 私の手を自分の頬に当て、微笑む土方さん。

 堪えられなくなった雫が、ぽろりと頬を滑った。と同時、土方さんの整った顔が近づく。

 口の端に落ちていくそれをすくうように、彼の唇がそっと私に触れた。

「……え……?」

 なにが起きたのかいまいち状況を理解できない私に、彼はもういちど唇を寄せた。

 今度はわかった。土方さんが、私に、キスをしたのだ。幕末で言えば、口吸い。

 理解した途端、体温が急上昇したような気がした。顔が火照り、涙が蒸発した。

「こっち見ろ、美晴」

 呼ばれて反射的に顔を上げると、カシャッとシャッター音がした。私は手を前に出し、火照った顔を撮られないようにする。