幕末の頃、わざわざ剣道の面紐を赤に付け替えるような人だものね。もともとお洒落で、映えるものが好きなのかもしれない。

「いただきます」

 何枚も写真を撮ったあと、分厚いサンドイッチを手に取った。一瞬躊躇したけど、結局できる限りの大口を開けてかぶりついた。

 レタスの水分でパンがべちゃっとすることもなく、ふわふわのまま。マヨネーズソースもちょうどいい味わいだ。ちょっとからしが効いていて、いいアクセントになっている。

「んん! おいしいです!」

 なんて幸せなんだろう。

 温かい秋の日差しが降り注ぐ中、誰かが作ってくれたお弁当を食べられるなんて。

 いつもいつも、寮生のために料理を作る側だったので、こうしてもてなしてもらえたことがうれしい。

「早起きしてくれたんですね」

「まあな。お前はいつも、他人のために頑張っている。今日くらいはなにもしなくていいだろう」

 じいんと彼の優しさが胸に染みた。

 私は家の事情で、他人の世話を焼く立場になってしまった。しかし、もし母が生きていて、優しい父もいたら、私は実家で、両親に甘えていたかもしれない。もともと私は世話好きではなく、母に甘えていたい子供だった。