寮の敷地の中と外では、空気が違う。そう感じるのは私だけだろうか。
ネットで買ったワンピースの裾が、風に揺れて膝をくすぐる。
「また今日はえらくめかしこんだな。まつ毛の量が増えているのは化粧か?」
「私だって、女子ですから」
母が亡くなってからドタバタで、着の身着のままで家を飛び出した私は、おしゃれに傾ける気力を残していなかった。
このアスファルトの道を、裸足で走った。足の裏だけでなく、爪もぼろぼろになった。
生きなければならないから、恩を返さなくてはならないから、寮母になった。毎日毎日汗だくで働いた。寝るところがあるだけで幸せだった。
「そうだった。お前はおなごだったな。今日は特別かわいいおなごだ」
口の片端を上げて微笑んだ土方さんに、頭を優しくぽんぽんされた。せっかく整えた髪を崩してはいけないと思ったのだろう。
ん? ちょっと待って。昔の女の人って、みんな髪を結っていたよね。ということは、普通、大人の女性が頭を撫でられることなんてなかったのでは?
「土方さん、私のことをおかっぱ頭の子供だと思ってますね?」
「なんでそうなる」
先ほどの推理を話すと、土方さんは声を出して笑った。
「たしかにな。いや、これはテレビで男が女にやってたから、真似しただけだ」
ドラマかなにかを見たのか。もしや、壁ドンや顎クイ、髪キスもそこから学んで、試してみたとか?
「お前のことをガキだと思ったことは、一度もねえよ」
じゃあ、どう思っているんですか。
聞こうしたけど、やめた。意気地のない自分に負けた。