もしかしたら、本当に鴨川に飛び込んで、全身ずぶ濡れになったら、幕末に帰れるのかもしれない。いや、水がトリガーだとしたら、普段の手洗いやお風呂はどうなる?

 確証がない。そもそも人智を超えた現象を、人が理解して制御しようというのが無理なんだ。

 それでも私は、あれからずっと罪悪感に苛まれていた。私が止めなければ、土方さんは幕末に帰れたのかもしれない……。

「あの……実は」

 私は非難されるのを覚悟して、京都で土方さんの足が透けて見えたことと、そのときの状況をみんなに説明した。証拠も根拠もなにもないけど、彼が幕末に帰りかけていると直感したことも。

 土方さん自身も自分の一部が透けていたことに気づいておらず、私の話を聞いて瞠目していた。目線を合わせられず、深くうつむく。

「どういうことだ? 鴨川じゃなくて、京都の水が作用したのか?」

「京都の水なんて、京都の人は年中浴びているじゃないですか。それでみんながタイムスリップしてますか?」

「総司、お前かわいくねえなあ」

 原田先生と沖田くんが言い合う。

 私だって、どうしてあのとき土方さんが透けたのか、説明できない。あの水を全身に浴びたら幕末に戻れたかなんて、誰にもわからない。

 大人が黙りこくると、沖田くんが沈黙を打破するように言った。