大人三人が彼を見つめて、言葉を失った。

「どんなに安定した道を選んだとしても、なにがあるかわからない。明日のことなんて誰にもわからないんです。だとしたら、土方さんが自分の信じた道を行くのが、一番後悔の少ない選択かなと」

 彼の言う通りだ。今は元気だけど、理事長も高齢だ。突然なにかあったら、この寮だって、このまま存続できるかわからない。

 そのあとはどうなる? 現代の私たちは、それでもなんとかなるかもしれない。でも、戸籍も住民票もない土方さんは?

「それくらいにしてくれ。頭が痛くなってくらぁ」

 土方さんは眉間に皺を寄せ、額を押さえた。

「みんなが俺のことを考えてくれるのはありがてぇが、いかんせん幕末に帰る方法がわからない以上は、ここにいるしかねえだろう」

 ぎしりと、心臓が軋んだ気がした。幕末に帰る方法。私は、知っているのかもしれない。

 土方さんの足に水がかかったとき、一瞬だけど彼の姿が揺らいだ。あれは、彼が現代から消えようとしていたのかもしれない。