過去を忘れたり捨てろとは言わない。そんなことは誰にもできるわけがない。
「それって、左之さんに決める権利があるんですか? 土方さんの好きにすればいいじゃないですか」
原田先生が厳しい目で沖田くんの方を振り向いた。まるで彼を責めるように。しかし沖田くんは、それを全く気にしない風に言う。
「だってさ、土方さんの人生を土方さんがどうしようと自由じゃん。誠を貫いた近藤さんや土方さんは、結果的に負けたかもしれないけど、最高にかっこよかったと俺は思うよ。戻る価値がないとは言えない」
「総司、それはお前個人の感想だ」
「そうですけど。じゃあ左之さんは新選組だったことを後悔しているんですか? 僕はしていません。病にかからなければ、土方さんと一緒に戦い続けたでしょうね。いくら勝つ見込みがなくても」
沖田くんは曇りのない目で、大人たちを見まわした。
「それが僕たちの誠だったんだもの。誠の武士がいなくなっていたあの時代で、僕たちが最後の武士だった。僕はそのことを誇りに思う」
「だからトシさんに、幕末に戻れって言うのか。破滅するのがわかっているのに」
珍しく声を荒らげる原田先生に、沖田くんは肩をすくめてみせた。
「僕は、この生活だっていつどうなるかわからないと思うんです。僕たちは、平和な日常が突然壊れることを知っているじゃないですか」