「どうしちまったんだい、トシさんは」
こそこそと耳打ちされて、弱った。土方さんはこれまで、仕事中に上の空だったことがない。特に料理は、自らスマホで裏技を調べてくるくらい、楽しんでやっていた。
「疲れているんですよ、きっと」
「ああそっか。仕方ないね」
鍋に水を入れ、土方さんは額の汗をぬぐった。顔色が悪い。きっと、眠れなかったのだろう。
「土方さん、つらかったら休んでいてください」
杓子を受け取ろうとしたが、彼は首を横に振った。
「美晴が働いてるのに、俺だけ休めるか」
本音ではないだろう。きっと土方さんは、ひとりでじっとしていられないのだ。どうしても、新選組や近藤さんのことを考えてしまうから。
それからもときどき、土方さんは仕事の途中でぼんやりとしていた。お風呂のお湯を溜めるときに栓を閉じ忘れたり、職員用の自転車に空気を入れすぎてタイヤをパンクさせたりした。