「俺はさ、今回のことがいいきっかけになればいいと思う」

「えっ?」

「トシさんは幕末に戻りたがっているって美晴ちゃんは言うけどさ。戻ったとして、トシさんにいいことはあるのかな」

 確かに、禁門の変以降は、新選組に暗雲が立ち込める一方だ。近藤さんが信頼していた幹部が次々に離脱し、粛清の血が大量に流れる。

 そして、誰もが知っている通り、明治維新が起きる。幕府は政治をする権利をなくし、新政府軍に追い詰められていく。鳥羽伏見の戦いで幕府軍は大敗。
将軍は城を捨ててさっさと隠居。幕府に見切りをつけた新選組の仲間たちは、離散してしまう。

 相次ぐ敗戦。近藤さんの斬首。土方さんは旧幕軍と合流して北海道まで行き、函館政府の樹立に立ち会う。が、それを新政府軍が許すはずもなく、結局攻め込まれて撃沈されてしまう。この函館戦争で彼は命を落とすのだ。たったの三十五歳だった。

「俺は、帰らなくてもいいと思う。帰ったらトシさんにとって、つらいことしか残ってない」

 たしかに、歴史の上っ面だけをなぞると、そう思える。

「土方さん一人が帰ろうがいなくなろうが、歴史はそう大きくは変わらないさ。時代の流れは止められない。古臭い幕府は倒され、近藤さんは亡くなっていただろう」