「邪魔したな」
彼はおじいさんに怒ることなく、私の手を引いてその場を離れる。これ以上のトラブルになることを避けるためだろう。
「ひどいです。冷たくないですか」
「大丈夫だ。今日はもう宿に戻るぞ」
私がうなずくと、土方さんはすっと手を放して先を歩いていく。その足元を見て愕然とした。
彼の足が半分透けて、向こうの景色が見えた。と思ったら、陽炎のように、膝から下が揺らいでいた。まるで、このまま消えてしまいそう。
「土方さんっ」
後ろから抱きついた。勢いがよすぎて、土方さんが前のめりに倒れそうになる。
「なんだ、どうした」
「足、足」
転ぶのをなんとかこらえた土方さんは、自分の足元を見た。私も一緒に見たけれど、さっきみたいな透け感はなかった。通常の、ただ濡れてしまっただけの足だ。
「どうってことねえって」
彼自身、透けていたことに気付いていないようだ。私の見間違いだったのか。いや、そんなことはない。
今、彼はきっと、いなくなりかけたのだ。現代から。
心細くなり、彼の服の裾を握りしめた。彼はそれをどう思ったのか知らないけど、黙ってそのまま歩いた。
ホテルに戻るまで、余計な会話は、なかった。