「ん~……いわゆるタイムスリップってやつかな?」
「ああ? なんだその〝隊務尻っ屁〟ってのは」
「時間を越えることです。あなたはどうやら、元治元年から百五十年ほど先の日本に来てしまったようです」
口にすると、ますます嘘くさい。が、とりあえずそういうことにしておこう。
この人が偽物の土方歳三なら、そのうちボロが出るだろう。そうしたら警察に届けるなり、家に帰ってもらうなりすればいい。
しかし、もし本物だったら……。その方が問題だ。これからこの人、どうやって生きていけばいいのか。
私の言葉に衝撃を受けたのか、土方さんは大きな目を見開き、のけぞった。数秒固まったけど、やがてのっそり動き出した。
「信じられねえ……」
「ですよねえ。私もです。もし嘘を吐いているなら、今言った方がいいですよ」
「嘘なんか吐くか。早く屯所に戻らねえと、大変なことになる。俺が着ていた着物をくれ」
着物はまだ乾いていない。その旨を伝えると、土方さんは予備のスウェット姿でベッドから降りた。
「仕方ねえ。この妙な衣装を借りていくぞ。刀を出せ」
「どこに行くんですか」
「京に帰るんだよ」
京って、京都のことか。幕末の京都に帰りたいのはわかるけど。