「そんな悲しいこと、言わないで」

「ああ?」

「死んだ方がましだなんて言わないで……!」

 土方さんの顔が、突然ぼやけた。顔が熱い。目の奥や鼻が痛い。

 雫が一粒頬を流れて初めて、自分が泣いていることに気付いた。

「美晴」

 土方さんの吊り上がっていた眉が下がる。私は涙を見られたくなくて、顔を隠した。

「お前が泣くこたぁねえだろ」

 彼の方こそ涙交じりのような声で言った。優しく髪をなでられる感触がする。

「悪かった。取り乱した」

 ぎゅうと抱きしめられる。私は余計に顔を上げられなくなった。返事の代わりに、首を横に振る。

 一番慕っている人の無残な最期を、あんな形で知ってしまったんだ。混乱してもおかしくはない。

 でも、そこに土方さんの本音があった。彼はやっぱり幕末に戻りたくて仕方がないのだ。

 つい最近出会った私より、近藤さんの方が大事。そんなの当たり前。わかっているけれど、悲しい。

 きっと、土方さんは私のために命を懸けてはくれない。でも近藤さんのためなら、鴨川に自ら飛び込むと言う。