つまり、幕末か。冷たいものが背中を走る。

「まさか、川に飛び込む気じゃないでしょうね」

 土方さんは答えない。代わりに、青信号になったとたん、私の腕を振り払って歩き出した。

「そんなことをしたって、帰れるとは限らないんですよ!」

 鴨川に落ちた土方さんが流れ着いたのは、現代の、京都とはまったく別の場所だった。今鴨川に飛び込んでも、別の時代の別の場所に連れていかれるかもしれない。それならまだいいけど、なにも起こらず、普通に溺れる可能性が一番高いのではないか。

「帰れねえとも限らねえだろ!」

 ぶつけられた怒号に、体が震えた。立ち止まった土方さんが、私を睨みつけていた。

「死ぬかもしれません」

「こんなところで油を売っているくらいなら、死んだほうがましだ。俺がこっちで安穏と暮らしている間にも、近藤さんは……!」

 今自分が元治元年に戻れれば、近藤さんを斬首させないように力を尽くせると思うのだろう。

 わかるよ。私だって、できるならお母さんが再婚する前に戻りたい。最低な義父との結婚を阻止して、奨学金を借りて大学に行き直して、ずっとふたりで、つつましくも楽しい毎日を送りたい。

 でも、もう叶わないんだ。死んでしまっては。なにも。