武士として腹を切ることも許されず、斬首された近藤さんの姿を見て、土方さんは固まっていた。現代の活字を読むことは難しいが、近藤さんの首の横に書いてある当時の瓦版の文字は読めてしまっただろう。

 ごくりと唾を飲み込んだ。声をかけようとした瞬間、土方さんは本を投げ捨てるように置き、大股で外に出て行ってしまう。

 私も持っていたグッズをその場に置き、彼のあとを追った。

 なんてことをしてしまったんだ。絶対に、彼から目を離してはいけなかったのに。

 新選組関連施設にいれば、ネタバレの危険性は高いに決まっている。一瞬だって気を抜いてはいけなかったのだ。

「待ってください、土方さん。待って……」

 土方さんは私の声など聞こえていないように、まっすぐに四条の方へ向かって歩いていく。小走りでついていくのがやっとだ。

「どこへ向かっているんですか!」

 悲鳴に近い私の質問に、土方さんは一瞬振り返ったが、すぐに前を見た。

「鴨川だ」

「鴨川?」

「俺が落ちた川だ」

 祇園に近い鴨川は、たしかに壬生から歩いていけない距離ではない。遠いことには違いないけど。

「鴨川に行って、どうするつもりですかっ」

 赤信号も無視し、車が走行する道路に侵入しようとした土方さんの腕につかまり、足を踏ん張った。

「決まってるだろ。元いたところに帰るんだよ」