壬生塚を出る前に、スマホに連絡が入っていないかチェックする。着信もメッセージもなかったので、ほっとした。

 やはり今年の二年生は、土方さんや原田先生のおかげで、心が安定しつつあるのかも。こっそり土方さんに人生相談している寮生がいると、原田先生が言っていた。

 寮生の中に沖田くんがいるのも心強い。彼は異変を察知したら、すぐ土方さんに教えてくれることだろう。

 このまま、なんの事件もなく、楽しい思い出となる旅行になってくれたらいい。

「ふふふ」

「どうした」

「沖田くんのSNSです。楽しそう」

 流行りの動画アプリだ。短い動画を撮って、音楽を合わせて投稿する。私はあまり見ることがないけど、若者の間では大流行しているという。

 沖田くんは他の男の子たちと、新選組の羽織を着て、おもちゃの剣を振り回すという動画を投稿していた。無駄に見事な剣さばきが画面に映える。

「なんだあ総司。隊服なんぞ着てやがる。どこから持ってきた」

 私のスマホをのぞきこんだ土方さんが、興味津々といった様子で乗り出してきた。

「お土産屋さんに売っていたんでしょう。新選組グッズは人気らしいですから」

 どうやら沖田くんは嵐山にいるらしい。嵐山にはお菓子や漬物、雑貨も扱う大きなお土産屋さんが何件もあるものね。