土方さんは目の前に当時の景色を見るように、目を細めた。

「そういえば、こっちに芹沢の墓があったな。よし、参ってやるか」
「だ、大丈夫ですか?」

 壬生塚の方に歩いていく土方さん。塚ってことは、お墓が並んでいるのだ。禁門の変以降に亡くなった隊士のことを、彼は知らない方がいいはず。

 しかし土方さんは振り向かずに歩を進める。

「人はいつか死ぬんだ。誰の墓があっても驚かねえよ」
「それはそうですけど……」

 壬生塚の入り口は、大きな提灯が掲げられた立派な門のようになっていた。壬生寺の資料館が併設してあるらしい。

 塚に入るための料金を支払い、私たちは中に入った。

「どうして墓参りに金がいるのかと思いきや……」

 入り口で眉間に皺を寄せていた土方さんも、納得した。塚は生垣で仕切られ、足元は砂利と石畳が敷かれている。

 幕末から続くお墓を保存し、これだけの整備を続けるにはそれなりの費用が必要なのだ。

 私たちは静かに歩を進める。一番目立つ場所に、近藤勇の遺髪塔があった。写真で見た通りの口の大きな近藤さんの胸像が堂々と鎮座していた。

 土方さんは近藤勇像の顔を黙って見上げる。