「おやお客さん、あなた土方歳三さんに似てやしませんか」

 建物の中で、初老のガイドさんに声をかけられた。他のお客さんも案内していた彼は「この鴨居の傷は、土方歳三たちが芹沢鴨を襲ったときについたと言われていて……」などとここであったことを説明していた。

「俺はそんなにいい男かい?」

 現代慣れしてきた土方さんが冗談を言うと、ガイドさんに説明を受けていた女子大生三人組が黄色い声を上げた。

「そういえば、ちょっと似てるかも」

 こそこそ言う声が聞こえて、ハラハラする。当時の写真が残っているのも考えものだ。

「面白いお客さんだ。まあ、ちょっと話を聞いていきませんか」

 八木家の拝観には、漏れなくガイドと抹茶とお菓子がセットになっている。

 ガイドさんの話は面白そうだけど、土方さんは今さら聞くまでもない。私はネタバレが怖いので、咄嗟にお腹が痛いふりをした。

「いたたた……ごめんなさい」

 ガイドさんは親切に出口までの通路を教えてくれた。私たちはその場から離脱する。

「そうそう、ここで芹沢を殺ったんだよ。暗殺だったから誰にも言えなかったけど、下手人は俺と総司と……」

 まだ女子大生たちがいる部屋を指さし、べらべら話しだす土方さん。やめてやめて。聞かれたらおかしい人だと思われる。