「さあ、行きますよ。まず清所門から入って……」
「待て待て。勝手に入るな。お縄になりたいのか」
焦った顔でその場から動かない土方さん。さすがの鬼副長も、御所は緊張するらしい。
「大丈夫です。天皇陛下は現在、東京にお住まいで、ここには誰も住んでいません。昔の建物を見学するだけですよ」
「それにしたって、御所だろ。見ろ、門番が立ってやがる」
「あれは宮内庁警察の警察官です。手荷物チェックだけですよ」
スタスタ進む私の後ろから、「おい」「なあ」と呼び止める声が聞こえた。けれど私が警察官にバッグの中を開いて見せ、中に入ると、土方さんは慌てて追いかけてきた。
「たのもう。拙者、怪しいものではござらん」
警察官を門番だと思っている彼は、自分の小さなサコッシュをがばっと大げさに開いて見せた。ちなみにこのオシャレアイテムは原田先生に借りたものだ。土方さんは「風呂敷で十分だ」と言っていたけど、みんなに全力で止められた。
かしこまったがゆえに、余計怪しくなった土方さんを、警察官は止めはしなかった。バッグの中を確認し、あっさり通してくれた。
さすが、様々な観光客を相手にしているだけあって、真の不審者かどうかはすぐわかるんだなあ。