翌朝。アラームに起こされてスマホを見ると、沖田くんからのメッセージが入っていた。

『おはよう。ここに土方さんを連れて行ってあげて』

 短い本文の後に、URLが貼ってあった。リンク先を表示すると、沖田くんおすすめの観光地が表示された。

 今日は寮生も班行動なので、行先はバラバラだ。ついていくことはできない。じゃあ、沖田くんが提案してくれた場所に、サプライズで連れていってみよう。

「今日はどこに行くんだ?」

 ホテルの朝食バイキングを堪能したあと、土方さんに聞かれた。けど私は答えなかった。秘密にしておきたかったのだ。

「ふふふ。驚きますよ」

「わかった。新選組ゆかりの地だな。さしずめ、壬生の屯所か」

 バスの中で答えを当てようとする土方さん。

「前川邸は門だけ見学可能で、建物内は公開されていないようです。八木邸は公開されているので、あとで行きましょう」

 新選組は二つの民家を屯所として借りていた。元々住んでいた前川さんと八木さんは、どんなに迷惑だっただろうなあと幕末に思いを馳せる。

 だって、百姓上がりの田舎侍もどきがどやどや家の中に入ってきて、寝泊まりしたり訓練したりするんだよ。浪士を捕まえて蔵で拷問とか。お上の命令じゃなければ、全力で断るよね。

「へえ、本当に残っているのか……」

 土方さんはうれしそうな、そうでもないような、複雑な表情をしていた。そうこうしているうちに、バスは目的地に着いた。

「ここは……」

「そうです。京都御所、つまり昔の天皇の住まいです」

「天皇……天子様のことか」

 ごくりと息を飲む音が、土方さんの喉から聞こえた。

 今は予約なしで通年無料見学できる京都御所だけど、幕末ではまだ天皇が住んでいた。普通の武士でもおいそれとは近づけなかった場所だ。成り上がりの新選組が御所に入れたのは、長州藩のクーデターが起きたときくらいだった。