「おいおい。襲ったりしねえから、もう少し楽にしろ」

 はっきり言葉に出されると、警戒が羞恥に変わる。これじゃ私が自意識過剰みたい。

「別に、襲われるなんて思ってません」

「嘘つけ。顔真っ赤だぞ」

 私は唇を噛んで黙った。顔が熱くてたまらない。

「襲うつもりがあるなら、今までだっていくらでも機会があっただろ。隣の部屋に住んでいたし、部屋の行き来もした」

「う……」

 恥ずかしさのあまり、死んでしまいたくなる。

 土方さんの言う通りだ。私は彼と一晩を過ごすことに対し、身の危険を感じていた。

 しかし彼が私に魅力を感じ、女性とみなしていたなら、ここまで無事であったのはおかしい。だって、彼は幕末一のモテ男だ。

 ということは、私は単に妹のように見られているか、もっと悪ければお母さん、あるいはまったく意識されていない、ちっぽけな存在だということ。

 なにを勘違いしていたんだ。恥ずかしい。

「ほら、立て」

 声が聞こえたが、私は床で膝を抱えてうずくまっていた。今すぐ消えてなくなってしまいたい。

「おい美晴。大丈夫だ。もう少し俺を信用しろ。俺はお前の親父とは違う」

 ぽんぽんと肩をたたかれ、顔を上げた。

「そんなに怖がるな。もし本当に嫌なら、俺がどこかに行くから」

 見上げた土方さんは、眉を下げて微笑んでいた。

 もしや土方さんは、私が彼を怖がっていると思っている?

 昔、ろくでもない義父に、風俗に売られそうになった。彼はそのことを知っているから、私が男性を信じられないのだと解釈しているのかも。