「いいじゃねえか。俺とお前の仲だろ」
突然肩を抱き、顔をのぞきこんでくる土方さん。長いまつ毛が魅惑的に揺れている。
「ただの同僚じゃないですか!」
悪魔のような彼を押し返そうとしたけど、力の差で敵わなかった。絶対、私をからかって遊んでいる。
「うえええん。じゃあ、いいです。とりあえず鍵くださいっ」
「それでいいんだよ。最初から素直になれよな」
とにかくこのままではらちがあかないので、鍵をもらって一旦部屋に入ることにした。
土方さんは肩に手を回したまま、私をカウンターから離れさせる。彼は余裕で、後ろの子供に手を振っていた。
心臓がばっくんばっくんしている私と土方さんに割り当てられた部屋は、ベッドがふたつ並ぶ、ごく普通の洋室だった。ダブルベッドじゃなかったのが救いだ。
「おお、こりゃすげえな。床一面に毛が生えてやがる」
「絨毯と言ってください」
私は部屋に入るなり土方さんの腕を振り切り、スマホを取り出して周辺のホテルを探した。カプセルホテルでもいい。どこか宿泊先は……。
ベッドに腰かけてスマホを睨んでいると、突然スプリングがきしっと軋む音がした。
「まだ探してんのか。あきらめろよ」
「わあああ!」
後ろから土方さんが私の肩に顎を乗せて呟いた。驚いた私は、大きな声を出し、飛びのこうとして無様に床に転がった。
か、か、か、顔が近すぎた……。