「ひ、一部屋ですか?」

 ホテルのカウンターで理事長の名前を告げると、一部屋しか予約されていないことが発覚した。

「大人二名様ですよね。ツインのお部屋をご用意しております」

 くらりとめまいがした。まさか土方さんと同じ部屋で寝ることになろうとは。いや、ダメ。彼氏でもない人と相部屋なんてありえない。

 どうしてよ理事長。ここは絶対間違えちゃダメなとこでしょ。いや、予約をしたのは秘書さんかな? とにかく、取り返しのつかない予約ミスをされたようだ。

「あのう、他にお部屋は空いてないですか? シングルでも、なんなら物置でもいいんですが」

「申し訳ありません。あいにく満室でして」

 修学旅行シーズンでもあり、行楽に適したこの時期はホテルも忙しい。

 別に人気のお宿でも、部屋に露天風呂がついているわけでもない、ビジネスホテルに毛が生えたくらいのホテルでも、こうして無情な現実を突きつけてくる。

 チェックインに手間取っていると、後ろから小さい子供の「ママぁ。まーだー?」という声が聞こえてきた。後ろの人たちを待たせてしまっている。