着物のレンタルは五時半まで。清水の門前町まで戻り、着物を返却して洋服になると、体が軽くなったような気がした。土方さんは名残惜しそうな顔をしていた。
「せっかくなので、池田屋跡にある居酒屋でお食事して行きましょうか」
寮生も、旅館に帰って全員で食事をするはずだ。
スマホで調べたところ、池田屋のあった場所には今、居酒屋が建っている。新選組関連アニメやゲームとのコラボメニューなども展開しているとか。
「いや……池田屋の光景を思い出すと、飯がまずくなるからやめておく」
土方さんは池田屋事件のとき、先に踏み込んだ近藤勇さんのグループとは別の場所を探索していた。あとで駆けつけたときには、既に池田屋は血の海になっていたという。
「そこらに体の一部を失った死体とか、柱に飛び散った血とか肉とか、髪とか」
「ひいい」
「一部始終を見て正気を失った女中の叫び声が、今も聞こえてくるかもしれねえ……」
「やめましょう! うん、やめて違うところに行きましょう!」
それを言いだしたら、日本中どこでも人は死んでいるのだし、気にしはじめたらきりがない。けど、土方さんにとっては少し前に見た光景がフラッシュバックするのだ。さすがにそんなところでご飯を食べる気にはならない。