彼は知らないけど、幕末の後、大正と昭和にも大きな戦争があった。そのたびにあちこちの街が焼野原になったけど、私たちのご先祖様たちは生き残り、生き続け、こんなに恵まれた世を私たちに残してくれた。繋いでくれたのだ。

「みんな、どうしてるかな。京が焼けて、家を失った町人が溢れて、治安は最悪だった。少しは落ち着いているだろうか」

 何気ない一言にドキリとする。やっぱり彼は、幕末に帰りたいんだ。

 小さなトゲが、胸をちくちくと刺す。

 そりゃあそうだ。そうに決まっている。彼が一番大切にしているのは新選組と近藤勇さん。疑いようがない。

 でも、気づきたくなかった。考えることを拒否してきた。

 私、もうとっくに土方さんのことを……。

「せっかくだから、写真を撮りましょう」

 深刻に考えそうになった自分を振り払うように、勤めて明るく言った。

「おう。いい句が浮かびそうだ。そのあと、どこかで甘いものでも食べるか」

 土方さんは笑顔で振り向き、何枚も着物を着た私の姿を写真に撮ってくる。

「建物撮りましょうよ」

「バカ、建物より生きている美人だろ。ほら、こっちこい」

 土方さんは私の肩を抱き、すっかり手慣れた様子で自撮りまでした。

 その後も寮生の足取りを追うようにして、名所を回った。

 疲れた足で寄った喫茶店で注文したティラミスパフェは、表面が鮮やかな緑の抹茶ムースに覆われ、その上に美しい黄金色の飴細工が乗っていた。