足元が下駄になったので、ちゃんと歩けるか心配だ。なるほどこれなら、急ぎたくても急げない。これが土方さんの策略だったのか。
「いや、本当にかわいい。世が世なら、夜這いをかけるところだ」
お店の人に聞こえなように、至近距離でそんなことを囁くから、顔が熱くなってしまう。
「なに言ってるんですか。だいぶ時間をロスしましたよ。行きましょう」
照れた私は、わざと怒った顔を作って土方さんの袖をクイクイと摘んで引っ張った。
「いいねえ、その仕草」
「からかわないでくださいっ」
お店の人に満面の笑顔で見送られ、私たちは外に出た。その瞬間、土方さんに視線が集中したような気がした。
「さあ、行きますよ!」
大股で歩こうとしたら、いきなり下駄が滑り、転びそうになった。
「おっと」
軽やかに体を支えてくれた土方さん。抱きつくようになってしまい、慌てて離れる。
「仕方ねえなあ。ほら、手。繋いでないと心配だ」
土方さんは私の手を取り、歩き出した。
「俺がいた時代では、未婚の男女が手を繋いで歩くなんてことはなかった。大っぴらにお前と手が繋げるなんて、いい時代になったもんだ」
「どこで覚えたんですか」
「恋愛銅鑼麻ってやつだ。あれはなかなか面白い」
土方さんはまるで大事なものを守るように、ゆっくり私を誘導してくれる。
ダメだよ、土方さん。私、あなたのこと、本当に好きになってしまう。