昼前に京都駅に降り立った土方さんは、あんぐりと口を開けた。

 寮の近辺は割と田舎なので、京都駅の規模に驚いたようだ。修学旅行生を含め、構内を行き交う大勢の人々。百貨店に続く大きなエスカレーター。天井を覆う、鉄筋のアーチ。

「総司が、まだ京には昔懐かしい建物がたくさんあるって言っていたのに」

「たしかに京都駅は近代的ですけど……」

 きっと、日野で生まれた土方さんが京の街に出てきたときも、こんな風に見るものすべてが珍しくて感動していたんだろうな。

 しかしこの調子でいちいち立ち止まられると、先に進めない。私はきょろきょろする、完全お上りさん状態の土方さんを引きずり、コインロッカーに荷物を放り込んだ。

 今夜宿泊するホテルは、駅から少し離れている。寮生とは別のホテルだ。寮生が行きそうなメジャーな行先を回るには、身軽な方がいい。あとで取りに来よう。

「さて、まずは……」

 私は理事長からもらっておいた修学旅行のしおりを開く。まずは集団で、定番の名所を回ることになっている。

「清水寺からですね。私についてきてください」

 バスの一日乗車券を買い、乗り場に並ぶ。さすが有名観光地、すでに十五人ほどの列が出きていた。

 寮生は他のクラスメイトとともに観光バスで移動している。彼らの方が移動がスムーズなのは明白。すぐについていけなくなりそうだ。

 同じ観光バスで移動しないのは、一般の生徒に不審がられないように、こっそり見守る必要があるから。寮生たちは私たちが近くにいるのは知っていて、各自に土方さんのスマホの番号を渡してある。

 バス停から清水寺に続く坂道を行く。どうしても、道の両端に立ち並ぶ様々な商店に目が行ってしまうけど、急いで歩を進める。