「寮とは環境の違う旅先なら、込み入った話もしやすくなるんじゃない?」
「別に、込み入った話なんて……」
いったい私と土方さんになんの話をさせたいと言うの?
言い返そうとしたら、後ろから速い足音が聞こえてきて、振り返る。
「お前ら、こそこそなにしてやがる」
眉と目をつり上げた土方さんが、私たちを鬼のような顔でにらんでいた。
「お前はどうして、俺の言うことを聞かねえんだ。こいつになにかされたらどうするんだ。ひょっとして、もう恋仲になったのか」
原田先生とふたりきりにならない約束を破ったは、怒られて身をすくめた。
「なにもしないよ。どうして俺をそう破廉恥なやつだと思っているのかね。俺はただ、トシさんのカッコイイところを美晴ちゃんに見せようと思って。無理やり誘ったんだ」
チッと舌打ちをし、モップを肩に担いだ土方さんは不機嫌丸出しの顔でそっぽを向いた。汗が男らしい首筋を流れるのが見える。
「恋仲じゃないし、なにもされてません! 仕事上の相談をしながら、原田先生にここに連れてこられただけです」
私と原田先生との間にはなにもない。勘違いしないでほしい。
怒鳴るように反論すると、土方さんはちらと私を見た。
「そりゃあよか……いや、とにかくもう夜更けだ。美晴は早く戻れ」
「え、俺は?」
「左之は俺に付き合え。のぞき見していた罰だ。鍛え直してやる」
土方さんはどこからか、もう一本モップを取り出した。
「いや俺、今世では槍やってねえから」
原田先生は学生時代、バスケットボール部で活躍していたという。槍の名手だったのは、前世までの話。
「前世の感覚を思い出せば問題ねえ。来い、鍛練だ!」
無茶苦茶なことを言い、土方さんは原田先生を引きずっていってしまった。