基本的には、寮生も一般の生徒と一緒に、普通に修学旅行を楽しんでほしい。ただ、なにか緊急事態が起きたときのために、寮母か寮の教師に、京都に滞在してほしいと言われたらしい。

 寮生はやんちゃな子が多いため、団体行動から外れてフラッと迷子になったりする子が毎年いるとか。

 一般の生徒と長く一緒にいると、自分の家庭環境と比べて嫌になり、エスケープ行動に出てしまうのだ。そのときの相談役は、学園の教師より寮母がいいというわけか。

「毎年寮長が同伴していたと思いますが」

 私は今年も、寮で留守番をするつもりだった。

「寮長も腰が丈夫じゃないからね。今年は若い人にお願いしたいって、理事長に申し出ていたみたいで」

「えっ。そうなんですか」

 たしかに寮長は年相応の体で、重い物はあまり持てない。倒れていた土方さんを寮内に運んで着替えさせたときなんか、次の日体が痛くて動かせなかったそうだ。

 でも、それならそうと早めに言っておいてほしかったな。寮生より自由がきくとはいえ、準備もあるし。

 出入り口から離れるにつれ、灯りが少なく暗くなる。建物の影を曲がろうとしたとき、先を歩いていた原田先生が振り返り、「静かにして」と顔を近づけてきた。